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EOS R5を実際の撮影現場で使った場合にかかる深刻な制限とは?

先日、ブログの記事でYoutuberのArmandoさんがキャノンのEOS R5を使って映画のワンシーンを再現して見せたことをお伝えしました。

その映像はとても高精細で、カメラワークもライティングもしっかりと作り込んでましたので、動画を見た印象ではEOS R5は撮影現場で使えるカメラなのかも、という印象を自分も持ちましたし、皆さんも似たような印象を持ったことと思われます。

 

さて、面白いことに、Armandoさん自身が次にアップした動画で(冒頭に貼り付けてある動画です)EOS R5がいかに実際の映画撮影の現場に不向きなカメラであるかということを正直に告白しています。 今回はその内容をかいつまんでお伝えいたします。 

 

正直、最近オーバーヒートに関する記事が多すぎて、この記事もその点に関しては触れてますが、もう書いてる僕も、読んでくださっている皆さんもオーバーヒートに関してはお腹いっぱいなんではないかと思いますので、次の記事でフィリップブルームさんが語るα7sIIIのオーバーヒートに関する記事を取り上げて終わりにしたいと思います。

 目次

 

まず初めに、あなたは8Kと4Kの見分けがつきましたか?

Armandoさん曰く、ア ヒューグッドマンのワンシーンを再現した映像の中で、意図的にあるカットは4Kで撮影し、もう一つのカットを8Kで撮影しているらしいです。 皆さんは見分けがつきましたか? 僕にはさっぱり見分けがつきませんでした。

(まあ、8Kの視聴環境がないからと言われればそれで終わりなんですけど)

 

Armandoさん曰く、実際の映画でジャックニコルソンが演じる被告人席に座っている人のカットはすべて8Kだったそうです。 

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8Kで撮影されたカット

対して、本編ではトムクルーズが演じていた検事(?)役の人のカットはすべて4Kだったそうです。

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こちらのカットは4Kで撮影

新しい動画サンプルを堪能しましょう (1:21秒から)

さて、冒頭の動画では、Armandoさんが撮影した新たなるシネマティックな撮影サンプルが上がっています。これはどの映画の再現なのか、正直わかりません。でもこちらもかなりのクオリティです。こちらもEOS R5で撮影されているのでしょう。正直、こんなことやってるなら本当の映画撮っちゃえばいいのに、と思うくらいクオリティは高いと思います。

 

もう一本、動画サンプルが(5:45秒くらいから)あります。こちらはローライトパフォーマンスのテストだそうです。こちらの映像もシャドー部分のノイズもコントロールされて、とても綺麗な映像に仕上がってます。 この時、使ったライティングは登場人物の持っているフラッシュライトと一個のライトバルブだけだそうです。

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シーンのライティングに使われた登場人物のフラッシュライト

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もう一つの光源はこのライト

 

Armandoさんは撮影中にオーバーヒートの問題にとことん悩まされたことを告白します。

 

以下、Armandoさんのコメントを抜粋してお伝えします。

 

撮影中に直面した問題とは

キャノンEOS R5を撮影のセットで使った時に私たちが直面した最大のチャレンジについてお伝えしたい。

 

カメラの電源をオンにした瞬間からオーバーヒートタイマーがカウントダウンを始めるのである。 通常、撮影現場では最初のシーンの撮影準備に大体30分から45分くらいかかると思う。私たちの撮影現場も例にもれなく撮影準備に時間はかけた。

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私たちが最初のシーンの撮影準備を完了し、カメラを回す段階に入って、EOS R5の画面を見たら残りの撮影可能時間が5分〜10分と表示されていた。まだ一度も録画ボタンを押していないにもかかわらずだ。

 

正直に言おう、なぜ私たちが一つのカットを4Kで撮り始めたかというと、8Kでの撮影続行は不可能だと悟ったからだ。 本来の目的ではすべてのテストを8Kで撮影するつもりだった。

 

オーバーヒート問題のせいで8Kの次にハイクオリティであるALL-Iの4Kモードで撮影することを強いられたと言って良い。 4K HQでの撮影すら許されなかったのである。正直、大変残念に思ったよ。

撮影準備の段階からいくつか対策を練っていたこと

実は撮影日の前日にテストを少ししたのだけれども、その時に、相当な準備が必要だと悟ったから、撮影当日には保冷剤をたくさん用意し、リーフブローア(落ち葉を風で吹き飛ばすやつです)を使って空気を流し込んで冷却することも試みた。

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青い物体が保冷剤

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空冷も試みている

私たちが試みたことは他にもたくさんある。テイクごとにバッテリーを抜き、記録メディアも抜き、内部温度が下がるのを願った。 PLレンズを使っていたため、IBIS(ボディ内手ぶれ補正)とオートフォーカスもオフにしていた。

 

しかし、私たちの試みは一つも助けになっていないと感じた。オーバーヒートの問題はそれくらい深刻だった。

 

そういえば、ランチブレークがあって、1時間の昼食を取った後に電源を入れたんだ。 もちろん、(キャノンの公式サイトでの最大撮影時間である)20分の録画時間があることを期待してね。 結果は、カメラ表示では10分の8K記録可能という表示だった。 これはとてもフラストレーションの溜まる経験だった。

外部モニター接続時の問題

今回の撮影では外部モニターを使っていた。(使わない現場があるだろうか…)問題の一つとしてHDMIでの外部出力をする場合はオーバーヒートのコントロールが自動的にオフになるということだった。

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HDMI外部出力時に出てくる警告サイン

これはとても大きな問題だ。実際のプロダクションの現場ではほぼ100%このカメラが使えないことを意味しているからだ。

ウェディング撮影での8Kも難しい

ちょっと、違った側面から見てみよう。ウェディング ビデオグラファーが結婚式の撮影をしていたとする。 セレモニーのシーンを40分ほど撮影した後、重要なカップルのキスシーンを8Kで撮りたくてモードを変えようとしたとしよう。

結果は明らかで、カメラ内の温度が既に上昇していてそのモードでの録画可能時間はゼロ分になる可能性が高い。

 

唯一、オーバーヒートしなかったモードは4K ALL-Iモードだけで、この場合はHDMIに外部出力していても問題はなかったことも伝えておくべきだろう。

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4K ALL-Iモードはオーバーヒートしない

このカメラを既に予約している人たちはこのような制限を理解していると信じたい。 そして、私のように、その制限を受け止めることができることを願う。

 

問題は、大々的にキャノンが宣伝している録画可能時間が実際には嘘であるという点にあると思う。

理解しがたい点について

一つだけ、理解しがたい点がある。 それはカメラがオーバーヒート表示をしている時でも、カメラを触ってもあまり熱を感じられない事だ。 正直、まだカメラのボディは冷たい方である。これはもちろん、私が過去にオーバーヒートしたカメラを触ったことがあるという経験の下に語っていることなので信じて欲しい。

 

カメラのボディだけではない。バッテリーもあまり熱しているようには感じられなかった。 CFexpressカードに関しては若干暖かかったが、それは記録メディアに関してはあり得ることだ。 私の持っているC500 MK2や1DX MK3でも同じことが言える。

私の推測はこうだ

このことから推測できることがある。

1)キャノンがオーバーヒートの設定をかなりきつめに設定している。

2)実際には温度を測っているのではなく、タイマーが勝手に発動して、タイマーの方が実際の熱の状態をオーバーライドしてオーバーヒート表示をしている

上記の二つのどちらかの一つだと思われる。

今後望む改善点

なので、R5の今後の改善という点に関してはまだ、すべての希望を失ったわけではない。 ファームウェアのアップデートで何かしらの対策を施すのではないかと思っている。 その時には是非、HDMI外部出力時のオーバーヒートコントロールの問題も解決して欲しい。 カメラのLCDをオフにすれば大丈夫になるとか、そう言った設定ができるようにして欲しい。

 

もう一つ、改善可能な提案としてはカメラ内部(あるいはHDMI出力時)での録画フォーマットを増やすことである。Blackmagic社のB-RawやAtomosレコーダーでのProRes RAW サポートを実現できれば素晴らしい。Sigmaのfpができるのだから不可能ではないはずだ。

 

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シネマカメラ化したSigma fp

カメラのオーバーヒートコントロールの設定を若干緩めることでオーバーヒートしにくくするというのも改善点として可能な点だと思う。 先述したように、カメラを触った限りではカメラ内温度の上昇は感じられないことが多いからだ。

 

私はキャノンが宣伝している通りの20分間の録画可能時間をどのような条件でも希望する。偶然カメラが45分くらいオンになっていたからといって10分しか撮影できなくなるのはナンセンスである。

まとめてみよう

とりあえず、今回のレッスンで習ったことはこういうことであろう。

1) CanonのEOS R5は(実際の撮影現場を想定した場合)8Kカメラでもハイフレーム撮影可能なカメラでもない。

 

2)CanonのEOS R5は良い画質で4Kを撮影できるカメラである。EOS Rのクロップモードから脱却した進化版だと言える。

 

R6に関してはどうだろう? R6に関しては全く違う経験をしたので、それに関しては今度伝えたい。

 

さて、いかがでしょうか、僕個人としては、キャノンを熱烈に支持するArmandoさんの口から語られた言葉にとても説得力を感じましたし、キャノンはこのような熱烈な支持者の期待を裏切るべきではないと感じました。

 

余談ではありますが、EOSHDでは独自にEOS R5の出荷台数という記事を書いていて、そこでは

1)大手の販売店では300の予約に対して入荷したのが5台のみ

2)他のベルリンのミドルクラスの量販店では2台だけ入荷

3)ヨーロッパで最大手のカメラ量販店では一台も入荷がなく、いつ入荷するかの見込みもない

 

など、入荷数が極端に少なく、あえて入荷させず、ソフトウェアの改良を行う方向に転換したのでは? という憶測も流れています。

 

僕自身、元々はR5を買う気満々だったので、この動向にはもう少し注意を払って見ていきたいと思っています。