映像制作は撮影機材の進化と機材価格の低下という面から敷居が低くなっていると見て良いでしょう。 そのような現代において、映像制作を請け負う場合の値段交渉はどのようにするべきでしょうか? ヒントを見つけました。
TheFuturRolePlayというYoutubeチャンネルが映像制作を請け負う場合の値段交渉をする時に相手の見積もり額を訂正させるロールプレイを紹介しています。
実際、映像制作の相場なんて、ピンキリで、依頼する方も相場がわからないと大体これくらいで、と自分側の都合を押し付けてきやすいのが現実ですが、このビデオを見ると、そのような場合の対応をすらっと、スマートに解決しています。
このビデオの反響ですが、コメントが1400件以上ついていて、みなさん、安い値段を吹っ掛けられた経験がおありのようで、共感のコメントがたくさんついています。
では、ここからクライアントと製作者のやりとりを淡々と翻訳して行きますので、お時間のある方は一読ください。
登場人物はクライアントのモーさん、モーさんはプロモーションビデオを$1000(大体10万円と思ってください)で作りたいみたいです。一方、制作者のクリスさんは$4000(こちらも大体40万円だと思いましょう)以下の仕事は引き受けたく無いみたいです。
クライアント(モーさん): はいクリス、この電話を取ってくれて嬉しいよ。 今回電話したのは君に会社のプロモーションビデオを作ってもらおうと思っているからなんだ。
制作者(クリスさん):電話をいただいてありがたいです。もちろん引き受けたいと思っていますが、予算はいくらで考えてますが?
クライアント: $1000でどうだい?
制作者: (深いため息)$1000…ですか。このPR動画は貴方にとってどれくらい重要ですか?
クライアント: もちろん、重要になるだろう。君が引き受けてくれるならね。
制作者: $1000の動画で貴方は何をアピールしようとしてますか? 解決したい問題とかがはっきりと見えてるんですか?
クライアント: できるだけ、多くの人にこのストア(明らかに何かを販売している模様)に足を運んで欲しいと思っているんだけど、なかなか、このお店の存在自体が認知されてないみたいなんだ。
制作者: どれくらいこのお店の存在をアピールしたいのでしょう?
クライアント: 少なくとも1日にお店に足を運ぶ人の数を2〜3人は増やしたいな。
制作者: 2〜3人の客足の増加は大体いくらくらいの増益に繋がりますか?
クライアント: うちの商品は$100くらいだから、$200〜$300の収益増加になりうるね。
制作者: じゃあ、大まかに言って$250くらいの増益と見積もっていいですか?
クライアント: そうなるね。
制作者: ちょっと計算してみましょうか。 1日に$250の増益を30日分で計算すると月計算で$7500の増益ということになりますね。
制作者: モーさん、$7500の増益のために$1000を投資することは適切だと言えますか?
クライアント: 少なくとも、10%以上の投資をしていることになるよね?
制作者: あー、じゃあ$1000の動画を毎月作るということですか?
クライアント: まあ、それはこの動画の結果次第じゃ無いかな?
制作者: 投資する金額が少なすぎるのでは? と懸念をしています。 私の大好きな哲学者、Jim Robinの格言を引用させてください。彼は「小さなことにたくさんの時間をかけるな」と言いました。
制作者: 若干、投資する金額に対して、求める見返りの金額が不釣り合いな気がしますが、どう思われますか?
クライアント: 君もビジネスをしてるから理解してると思うだろうけど、最初の投資は慎重になるもんだよ。 一気に大金を注ぎ込むのは危険だからね。 それに君が作るPR動画が毎月$7500の増収を保証してくれる確証はどこにも無いからね。それとも$7500の増益を保証してくれるのかね?
制作者: いいえ、そんなことは一言も言っていません。今、費用対効果の計算をしているところです。通常誰かが僕を訪ねてきて、「あまり予算は無いのだけれど、やりたいことがある」と相談しにきたら「予算が無いならやめたほうが賢明ですよ」と正直に進言します。そしてこうも伝えます。
おそらく貴方にとって、この案件があまり重要では無いから予算がないと言えるのだと思います。重要で無いことはやめましょう。
制作者: (続き)モーさん、貴方が僕の立場でもそのように進言しませんか? 他に$1000を投資して大きな費用対効果を得られる部分があるなら、そうしたほうがいいでは無いですか? モーさん、私は貴方の$1000を受け取って、あまり重要では無いことをしたいとは思いません。 質問させてください。 このPR動画を制作することは重要なことですか? それとも重要では無いですか?
クライアント: (少し躊躇しながら)重要だと思っているよ。
制作者: (割り込むように)$1000では賄えないくらい重要ということですか?
クライアント: その発言の意味を少し噛み砕いてくれないかな?
制作者: 貴方がビジネスをする時にいろいろな費用がかかってくると思います。その時に$1000という値段は投資額としては上位にランキングしますか? それとも最低辺の投資額ですか?
(畳み掛けるように続ける)噛み砕いてみますね。貴方のオフィスの冷蔵庫のお値段はおいくらくらいでしたか? クーラーを導入した時はいくら支払いましたか? ストアのフロアのクリーニング料金はおいくらでしたか? そして、それらに支払った金額は貴方のビジネスの売り上げにどれくらい反映されてますか? 私のお伝えしたいことが何となく理解できたのでは無いでしょうか?
クライアント: そうだね。 言わんとしようことは伝わってきたよ。
制作者: 貴方がこのミーティングにいらした時に運転してきたのはBMWの5シリーズですか? あの車は貴方にとって、とても重要な投資だったに違いありません。 もし、高級ブランドのズボンが欲しければ躊躇せすお金を支払うお気持ちはおありだと思います。 もし、高級ブランドのズボンが必要なければ買わなければ良いだけのことですから。
もし誰かが私を訪ねてきて「とっても大きな問題を抱えてるんだけど、$1000でどうにか解決したいんだ」と言ってきたら、私はその問題は対して大きな問題では無いのだと判断することにしています。
よくあるケースを紹介しましょう。 商売仇が格好いいPR動画を作ったからウチもとりあえず動画を作ろう、というケースです。 とりあえず動画を作ったことでライバルと同等のブランド力を得ようという考えです。 でも私はそのような、とりあえずの動画制作が本当に効果的なのか疑問を抱いています。
もし私が貴方のためにPR動画を制作するのならば、貴方と膝を付き合わせて、PR動画の目的、どのようにすれば効果的になるのか、ターゲートとする客層にしっかりとメッセージを届けるにはどうするのかをしっかりと話しあう必要があります。 でも私と貴方がそこまで時間をかけてじっくりとお話をする必要のある問題にしては$1000というのは少なすぎると思うのです。
クライアント: そうは言っても$1000以上は支払いたくないね。それが予算なんだ。
制作者: ならそれ以上支払うべきではないですね。私自身も($1000の)その仕事にはふさわしくないと思います。 そして、その程度の重要性なら、私だけでなく、他の誰にもその中途半端なお金($1000)を払うべきではないと考えます。
クライアント: なら、他に$1000で映像を作ってくれる人を探すしかないよね。誰か紹介してくれるかい?
制作者: 正常な判断力を持たない人なら$5くらいでやってくれるんじゃないですか? そんな人を探せたらいいですよね。幸運をお祈りします。
クライアント: わかったよ。じゃあ話はここまでだね。
ここで中断が入ります。そして、傍聴席にいた人(司会進行役と思われます)が意見を言います。
「今の会話はとても高度な次元で取り交わされたと思いますが、映像制作を仕事としてスタートしたばかりの、仕事に飢えている人たちは結局$1000でも$200ドルでも仕事を引き受けてしまい、膨大な量の仕事量と自分の達成感のなさに絶望していっているのが現実だと思うのです。
また、お金を支払う側にとっては時に$1000が大金である可能性もあります。
もう一方で、本当のプロとして仕事をするには、時にはしっかりと断る勇気も必要ではありますが、同時にお金を支払う人たちへの(映像制作の投資価値を)教育していく必要もありますがいかがでしょう?」
ロールプレイをしていた制作者役のクリスさんはこの言葉を受けてまずこのように述べます」
「プロとして意識するべきことは、依頼の電話が来る前に$1000はなかったのですから、電話を受け、依頼を受けたその瞬間に$1000を急に必要とするわけではないのです。つまり、その依頼を引き受けなくても人生はどうにか続いていく。そのように腹を括ることが重要です。仕事の依頼が来たことは、その仕事を引き受けなければいけない事とイコールではないのです。 そこで焦って仕事を引き受けてしまうと、どんどん泥沼にはまっていきます。」
クリスさんは、クライアントからの依頼を断らず、かつ、労力に見合う報酬をクライアントに約束させる方法があると言い、ロールプレイを続けてみようと提案します。
ー以下、会話途中から再開ー
制作者: $1000でPR映像を作りたいというお話でしたよね。
クライアント: その通りだよ。$1000以上は絶対に払いたくないね。
制作者: なるほど、$1000は大きな投資だという事ですね。そのお気持ち、理解いたしました。 それなら、こちらから提案がありますがいかがでしょうか?
クライアント : どのような提案だね?
制作者: 貴方のためにPR動画を無料で制作しましょう。そして、もしPR動画が希望通りの効果をビジネス面で発揮した場合、その結果の何割かを支払ってもらうというのはいかがでしょう? いかがですか? 貴方へのリスクはゼロです。
クライアント: それはいい提案だね。利益の何割を支払う必要があるのかな?
制作者: そうですね、顧客のトラフィックと利益の増加という点では、私たちが客観的に数値化できる指標が曖昧になってしまう可能性があるので、単純化しませんか? 新規顧客が一人増加するごとに利益の何割かをいただくという事でいかがでしょう? 一人のお客が$100くらいを支払うとおっしゃってたので、その半分の$50をいただくというのはいかがでしょう? あなたにリスクは全くありません。私がすべてのリスクを背負いましょう。 あなたが正直であってくれることが私の唯一の頼りとなります。
クライアント: (ため息混じりに)私は少し心配になってきたよ。君がPRビデオを作って、成功したとしよう。そして新規顧客がたくさん流れ込んだ時に、君に支払う金額が$1000を超えてしまう可能性が出てきやしないかとね。
制作者: 心配するのも当然です。この方法でやればあなたは確実に私に$1000を超える金額を支払うことになるでしょう。 でも、それがこの契約の肝ですから。 私が全てのリスクを背負うのです。ピーター ドラッカーはご存知ですよね? 彼はこう言いました。 「リスク抜きで利益は生まれない」、だから私が全ての責任を負うと言っているのです。
制作者(続き): あるいは、あなたが一回こっきり、私の価値を理解し、それに見合う投資をする(リスクを背負う)。そうすれば、その後の利益は全てあなた一人のものとなります。
クライアント: 君の価値はいくらだね?
制作者: 最低限でも$4000です。 考える時間が必要ならおっしゃってください。
クライアント: $4000で私が得るものを教えてもらおうか?
制作者: PR動画になります。
クライアント: PR動画が客をたくさん呼び込んだ場合に追加で支払う金額はあるのかい? なぜなら、もしたくさんの客が入り、利益が増えた場合に、君は最低でも$4000と言ったけど、それ以上の金額を徴収するつもりはあるのかい?
制作者: (笑いながら)まるで、PR動画によって永続的にたくさんのお客さんを呼び込むのを拒否しているような言い回しですね。 ご心配なさらないでください。 私が提案したのは二つの案です。一つは$4000一回のみの支払いによる契約です。追加徴収はありません。 もう一つは、私が無料でPR動画を作ります。その代わり今後発生する利益の半分を徴収させていただくと申し上げています。なぜなら私が全てのリスクを背負うからです。
クライアント: 後者を選択した場合は支払いの上限はないのかい?
制作者: 上限はありません。もしどうしても心配とおっしゃるなら最初の一年分の利益だけでもいいですよ。 それだったら了解しますか? あなたはとても賢いビジネスマンだと思います。今この瞬間も頭をフル回転させて今後発生する利益とその利益の半分を私に譲渡する事と$4000を支払うことを天秤にかけてらっしゃいますね。 私はどちらでも良いのです。選択肢はあなたにあります。
クライアント: 実を言うと、君とのここまでのやりとりをとても楽しんでいる。会話の流れから、君の話し方から、君の動画制作に対する自信とプライドを感じることができたよ。そして、PR動画を作ることによって発生する利益に比べたら$4000は安いと感じ始めたところだ。 $4000で決めよう。
制作者: すぐにでも企画書の手配をします。$2000を前払いで、完成したら残りを支払っていただくというのはいかがでしょう?
クライアント: 契約合意としよう!
ここでまた、傍聴席の人がまとめに入ります。
「今、ここで繰り広げられた会話は正直、動画制作のビジネスを始めたばかりの人には敷居の高い会話だったかもしれないですね。でも、もしそうだったとしても、常に覚えておいて欲しいのはクライアントの要望が最初に提示されても(例えば$1000)そこに固執してしまうのは良くないのです。 全ては交渉の余地があると考えてください。仮にクライアントが$1000で1分間のビデオを作りたいと言った場合、$1000なら30秒のものは作れそうだと伝えたりすることで、お互いの希望にそう形に歩み寄ることが重要だと思います。」
簡単にまとめてみましょう。
- 映像制作を仕事として請け負う場合、自分の価値を下げるような仕事は引き受けるべきではない。
- 仕事の依頼が来た場合、最初に提示された金額で仕事を引き受ける必要は全くない。交渉の余地は常にあり、むしろ交渉をすることで主導権を握ることが大切である。
- クライアントが映像を作る意図を汲み取り、依頼された映像を制作することにより得られる利益をしっかりと認識させる。
- 得られる利益が大きければ大きいほど、その利益を得るために見合った投資をするべきだと理解させる。
- 映像制作はちょちょいとできるものではないこと、そこにはどのようなプロセス(時間&労力)が必要となり、機材と技術と創造力が必要とされるかをしっかり理解してもらう。
- 投資額(依頼された時のギャラの額)を相対的に他の投資対象(冷蔵庫購入費、クーラー購入費、Webサイト維持費用、フロアのクリーニング費用等いろいろ)と比較させることで提示金額が妥当かどうかを一考してもらう。
- 最後に、自分の技術に自信を持つ。(もちろん、その技術を磨く必要はある)その上でその自信がしっかりとクライアントに伝わるようプレゼンすること。
このやりとり、昔、フリーで映像作家をしていた頃の自分が一度は陥ったジレンマだけにとても説得力がありました。最後まで読まれた方(いないかな?)はどのような感想を持たれたでしょうか?
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