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Ripple Trainingがα7S IIIでProRes RAW記録をするなら知っておきたいことをまとめてくれています。 動画の本編はかなり長いのですが、ここではProRes RAW記録時にデュアルネイティブISOを意識することの大切さのみに焦点を当ててご紹介いたします。(前置きが長いので、メインの内容のみが気になる方は目次からどうぞ)
目次
- 長い前置き
- α7S IIIでProRes RAW記録をする時に知っておくべきこと
- 特にISOの設定には気をつけたい理由
- カメラ内部記録とProRes RAW記録のノイズ処理の比較
- ProRes RAW記録で得られる他の利点は?
- ProRes RAW記録でのファイルサイズは?
- ProRes RAWの映像はどれだけ柔軟なのか?
- ただし、ベースISOで撮影することはやっぱり重要
- ProRes RAWのリカバリーの柔軟性
- 極端な明暗差のある映像でのリカバリーとノイズ コントロール
長い前置き
Ripple TrainingはMACで映像編集やクリエイティブな仕事をする人たちに向けてとてもわかりやすいTutorialをたくさん作っています。 扱っているソフトウェアはFinal Cut ProやMotion, Logic Proなど、Appleネイティブのものが中心になりますが、Davinci ResolveのTutorialもとても詳しいものを提供しています。
とりわけFinal CutやDavinciの使い方はYoutubeに無数のHow to系動画が上がっていて、わざわざチュートリアルを買う必要が感じられないと思う方もいらっしゃるでしょうが、これらのチュートリアルの優れた点は
- たくさんのチュートリアルがAppleとBlackmagic Designのオフィシャル トレーニングとして認可されているため、極めて体系的に物事を順序立てて教えてくれる
- 必ず、チュートリアルに使用するための素材が一緒についてくる (例:マルチクリップの編集の練習の時は、提供されるマルチクリップの映像を使って練習します)
- 理論的なことを語るマニュアル本が日本ではたくさん出ていますが、このチュートリアルで紹介される操作方法や技の数々は、いわゆる実際の現場や作品作りですぐに応用できるものばかり(例:インタビューの編集時にどのようにBロールを挿入し、言葉の編集をするか等)
- チュートリアルを作る人たちが、とにかく最新の情報を誰よりも早く手に入れて、常に新しいチュートリアルにアップデートをしている
- 他、ここでは語り尽くせませんが、本当におすすめです。
下の写真は、過去から今日に至るまで僕自身がRipple Trainingで購入したチュートリアルの数々です。
そのRipple Trainingですが、最新の情報をTutorialとして販売することはもちろんのこと、自身のチャンネルで役に立つ情報を小出しに発信してくれています。 興味のある人は下のチャンネルを登録して、日本語訳のキャプションをつけながら見てみても楽しいかもしれません。(英語のわかる人はもちろんそのままどうぞ)
下の記事本文を読む前に、上の二つの記事を読むことをお勧めします。
α7S IIIでProRes RAW記録をする時に知っておくべきこと
Ripple Trainingのマーク スペンサーさんの最近のお気に入りのカメラはどうやらα7S IIIのようです。冒頭に貼り付けた動画の中でマークさんは自身がAtomos Ninja Vを使用してα7S IIIでProRes RAW記録した際に発見したノイズコントロールとダイナミックレンジの確保について詳しく語ってくれています。
ProRes RAWで記録する時に、一番最初に思いつく利点というと撮影後にISOや露出、ホワイトバランスのコントロールが(画質の劣化を招かずに)できる点ではないでしょうか?
マークさんはこう言います。
RAW記録をする場合に撮影セットで気にしなければいけないことはなんだろうか?
照明やISOの設定などをRAWを記録するからといって、カメラ内部で記録する場合と変える必要はあるだろうか?
私の意見としては、たとえRAW映像が柔軟なパラメータ変更に対応しているとしても、撮影時にはしっかりとホワイトバランスを調整して、適正露出を割り出して撮影するべきである。
特にISOの設定には気をつけたい理由
Sonyのα7S IIIのデュアルネイティブISOは640と12800となっている。(S-Log3使用時)
もし露出が若干オーバーやアンダーになるとしても、敢えて必ずベースISOで撮影することを推奨する。
(例:適正露出にするためにISO 10000にするべきシーンも敢えて露出オーバーで12800にする等)
(デュアルネイティブISOの2番目のベースISOの計算の仕方は、各撮影プロファイルのベース ISO X 20倍になります。例 S-Cinetoneのベース ISOは100、即ちISO 100とISO 2000がベースISOとなります。)
RAW記録はカメラ内での画像処理をスルーするので、ベースISOにこだわる必要はないのでは?という声も聞こえてきそうではある。実際の映像を見ながら比較検証してみたい。
カメラ内部記録とProRes RAW記録のノイズ処理の比較
Final Cutのプロジェクト内にα7S IIIで同時に記録したXAVC(カメラ内部記録)映像とProRes RAWの映像を並べてある。両方のクリップにカメラLUTとしてSony S-Log 3/S-Gamut 3.Cine を適用している。
カメラ内部記録した映像から見ていきたい。 カメラ内部記録をした場合は、記録時にノイズリダクション処理がかかることを念頭に置きながら見てほしい。 最初に見せるのがベースISO 12800で撮影した部分になる。
ベースISOに近い ISO 10000でかなりのノイズが確認できる。それでは、ProRes RAWで記録した場合はどうだろう? ISO 12800から見ていこう。XAVCでカメラ内部記録したISO 12800の映像と比べた場合はノイズが目立っているが、RAWで記録するということはカメラ内部で処理されるノイズリダクションがかかってないことを考慮するべきである。RAWで記録した映像はポストプロダクションでノイズリダクションの処理を行う必要があるのである。ProRes RAWにてISO 10000の設定で記録した映像と比較してみたい。ISO 10000はベースISOではないので、たくさんのノイズが出ている。
カメラ内でのノイズリダクション処理を施していない状態で、カメラセンサーのありのままの情報を記録した場合で、ベースISO (12800)とそうでないISO (10000)ではノイズの量に劇的な変化が生じている。 つまり、ProRes RAWで撮影する時も、カメラ内部で記録する場合と同様に常にベースISO (ISO 640 & ISO 12800)にて撮影するよう心がけることが必要となってくる。
このような理由から、ProRes RAWで撮影する時にも、若干の露出アンダー/オーバーになる場合は可能な限りベースISOで撮影した方がノイズの少ない綺麗な映像を記録可能なのである。
ProRes RAW記録で得られる他の利点は?
ProRes RAWで記録されたファイルはカメラ内部で記録された10ビット 4:2:2のファイルに比べてFinal Cut 上での再生が滑らかである。私が先ほどお見せしたカメラ内部記録したXAVCの映像は10ビット4:2:0で記録している。理由は、4:2:2で記録するよりも再生が滑らかであり、色情報もしっかりと記録している手頃なフォーマットだからである。
私のMACは2019年に発売されたMacBook Proであるが、10ビット 4:2:2で記録した映像の再生がスムーズとはお世辞にも言えない。
ProRes RAWの映像はどうかというと、Final Cutが再生するためにデコーディングやデモザイク処理を行う必要があるにも関わらず、滑らかに再生が可能である。(この比較はマシンスペックにもよる部分が多いので参考程度に)
私の経験から比較するならば、ProRes 422 HQとほぼ同じレスポンスで再生可能である。
ProRes RAW記録でのファイルサイズは?
ProRes RAWで記録した場合の欠点として、ファイルの大きさが膨大になる点である。
先ほどの映像で比較した場合、カメラ内部で記録した30秒分のXAVCファイルの大きさは375メガバイトであったが、ProRes RAWで記録した同じ映像のファイルは3.84ギガバイトであった。
単純計算すると、約10倍のファイル容量ということになる。確かに大きいファイルになるが、比較した場合、ProRes HQのファイルとほぼ同じ容量となっていて、ProRes LTの大きさと比較してもさほど変わらない。(ProRes LTの同じファイルは2.85ギガバイト)
ProRes RAWファイルの容量はProRes LTより30%ほど大きいだけなのだ。
ProRes RAWのファイルサイズは実は一定ではない。これはシーンがどれだけノイズが乗りやすいか、などのいくつかの環境に左右されるようだ。 私の経験からお伝えすると 1分あたりの容量は6〜20GBと幅広くなる。
撮影前の準備として考えた場合は1時間半のProRes RAWファイルを1TBのSSDに記録できると考えて準備するとちょうど良いと思う。
ProRes RAWの映像はどれだけ柔軟なのか?
ProRes RAWファイルはRAWを謳っているだけあって、ポスト処理時にかなり柔軟に変更を受け入れるファイルとなっている。 例えば、撮影時にS-Log3で撮影していても、RAWであるためにLogコンバージョンは他のLog(例: PanasonicのV-Logに変換も可能)に変更してグレーディングすることも可能である。 あるいはLog変換をせずにリニアの状態でグレーディングも可能となる。ただし、デフォルト設定で作業するのが無難ではある。
もちろん、カメラのセンサーから取り込んだ、カメラ内部処理を施していないRAWパラメータをいじることも可能で、ISOや露出の変更をすることは、撮影現場でカメラのパラメータを変更しているのと変わらない効果を出すことが可能である。これは、カメラ内部処理された映像に色補正を加えるのとは全く意味が違い、理論的には画質の劣化を招くことのない変更が可能となっている。
※ホワイトバランスの変更はNinja Vの最新ファームウェア アップデートで可能となりました。
ただし、ベースISOで撮影することはやっぱり重要
カメラの各種設定を撮影後に画質劣化を招かずに行えるのはとても便利であるが、ベースISOで撮影していない映像のISOを撮影後にベースISOに変更してもノイズの量は全く変わらないことは知っておくべきことである。
同じ論理はベースISOで撮影された映像にも適用できる。
※つまり、ノイズの少ないベースISOで撮影しておいて、撮影後にポストプロダクションで適正ISOに変更することで、ノイズの少ない映像を作り出すことが可能となる。
※重要なのでおさらいしましょう。例を挙げて説明します。
- ISO 10000で撮影したノイズの多いProRes RAWの映像ファイルがあったとして、撮影後にRAWパラメータを変更してベースISOの12800にしても、最初に取り込まれてしまったノイズの量は変わらない。(このような状況は避けるべき)
- 本来ならばISO 10000が適正露出になるにも関わらず、あえて露出オーバーのISO 12800で撮影することでノイズの量を抑え、後に編集時にRAWパラメータをいじってISO 10000(撮影時の適正露出)にすることでノイズの少ない、適正露出の映像を得ることが可能となる。(ベースISOを優先して使用したことで得られた結果の例)
ProRes RAWのリカバリーの柔軟性
ProRes RAWで撮影した映像の柔軟性をさらに見せていきたい。 色補正やグレーディングを限界まで追い込む時にその効果はわかりやすい。
ここに用意した日の出の映像はProRes RAWとカメラ内記録の両方を用意してある。
同じLog設定と同じLutを適用している状態なため、両者の見た目はかなり似ている。
ProRes RAWで撮影した映像はレンズ補正がかかっていない。RAWで撮影した場合にレンズの歪みが気になる場合はマニュアルで補正しなければならなくなる。
この二つのコーデックの違いを明らかにするために、大幅なカラーコレクションを施してみた。 今回はカラーボードを操作して暗部をさらに暗くしてみた。結果、XAVCの映像は空の色彩の階調の部分にバンディングと呼ばれる色の分離が見られる。一方、 ProRes RAWの映像はバンディングが見られなかった。
ここでお見せした例は、明らかに通常行う色補正の範疇を超えているが、ProRes RAWの映像がポストプロダクションでの色補正や加工にどれだけ耐性があるのかわかりやすくしたかったので理解してほしい。 これは10ビット記録(XAVC)と12ビット記録(ProRes RAW)の保持する色情報の差ということになる。
極端な明暗差のある映像でのリカバリーとノイズ コントロール
最後に、ノイズ コントロールに関する話をしたい。 ProRes RAWで記録した場合は前述したとおり、カメラ内でのノイズリダクション処理がかかっていない、ありのままのセンサーデータを取り込むことになる。(ノイズリダクション以外にもシャープニングやレンズ補正が一切かからない)
このことは、ポストプロダクション時に加工しやすい映像が記録されるということになるが、同時にポストプロダクションで必ずと言っていいほど何かしらの処理を必要とする映像ということになる。
ここではノイズリダクションのみに焦点を当ててお話したいと思う。
私が撮影したインタビューの映像をここに用意した。わざと明るいバックグラウンドに適正露出が来るようにして撮影してある。
バックグラウンドに露出が合っているため、前景に写っている人物がシルエット気味になっている。ここで、人物が認識できるようにルミナンス(明るさ)の補正をしてXAVCとProRes RAWの映像を比較してみた。 ズームインして確認をしてみる。
繰り返すが、これはかなり極端な例である。暗部を持ち上げた時にXAVCとProRes RAWでの描写の違いを確認するためにこのように極端な例を見せている。
XAVCの映像をズームインして確認すると、顔の右半分にかけて暗部のディティールが潰れているのが確認できる。また、色彩の変化に伴ってブロック上のノイズ(マクロブロッキング)が発生している。これはカメラ内部で行われたノイズリダクション処理の結果である。
ProRes RAWの映像を確認してみよう。一見、XAVCの映像よりもノイズがたくさんのっていて劣化が激しいと感じるかもしれない。ただし、よく観察すると、XAVCでみられたようなマクロブロッキングは発生しておらず、滑らかな会長で暗部と明部が表現されている。
Final Cutのノイズリダクション機能を使うこともできたが、個人的にあまり効果的だと思っていないので、ノイズリダクションのプラグインで有名なニートビデオのプラグインを使用してProRes RAWの映像からノイズを除去してみた。 結果としては、かなり滑らかな階調を保持しながら効率的にノイズのみを除去してくれている。(下に掲載の写真は)200%のズームを行なっていることを念頭に置いて確認して欲しい。
ProRes RAWで撮影することは、ポストプロダクションでほぼ確実にノイズリダクション処理が必要となることを意味する。 しかしカメラ内部で撮影した映像よりも遥かに柔軟であるため、最終的には格段に画質の良い映像を得ることが可能となる。
もちろん、カメラ内部で記録した映像もProRes RAWで記録した映像も、しっかりと適正に露光して比べた場合は、その差を見つけることすら難しいかもしれない。 暗部のディティールをしっかりと描きたかったり、たくさんの色補正を念頭に置いた撮影の場合、ProRes RAWで記録した映像ははっきりとその効果を発揮することだろう。
ProRes RAWで撮影することは良いことばかりではない。
特にノイズリダクションにかけなければいけない時間は気が遠くなるくらいである。
コンピュータの処理能力も相当なものが必要になるだろう。
もしノイズリダクションをNeat Videoを使ってしなければいけない場合はNeat Videoを購入する必要がある。素晴らしいプラグインであることは認めるが、繰り返すようだがレンダリングにかかる時間がとにかく膨大になることは頭に入れておきたい。
今回、わざと露出の設定を間違えて撮影したわけであるが、ProRes RAWはこのような撮影ミスがあった場合にもリカバリーの可能性を残してくれるフォーマットであるとも言えよう。XAVCのようなカメラ内部でエンコード済みの映像はリカバリーしたくても、そのための情報を持っていないため難しくなるはずである。
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