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Panasonic S1HのRAW出力における、Blackmagic RAW VS ProRes RAW 現時点での優劣をつけてみる

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YoutubeチャンネルのDP JourneyにてRAW記録に関する様々な視点を提供してくれるSherif MokbelさんがS1HのRAW出力機能を利用してBkackmagic RAWとProRes RAWの徹底的な比較をしていますので、紹介いたします。 (長い前置きを飛ばして比較だけをみたい方は目次からどうぞ)

目次

 

長い前置き

先日、ヤフオクでBMPCC 6Kを落札いたしました。 BMPCC 6K Proが発売された影響から爆発的に値崩れが起こっているBMPCC 6Kですが、基本的な画質は全く一緒ということを考えるとこちらで良いような気がしています。

 

ヤフオクで購入した時の値段が28万円だったのですが、この値段はセットで購入したからで、

内訳はこうなります。

 

BMPCC 6K (ダビンチリゾルブ ライセンス付き)←中古市場でライセンス抜きで18万円前後

 

Blackmagic Design Video Assist 12G HDR 5インチモニター (現在新品で9万5千円程度)

 

Smallrig フルケージ (Amazonで8399円)

 

Smallrig SSDホルダー (Amazonで2699円)

 

Smallrig HDMIネクター固定用パーツ (Amazonで2699円)

 

Samsung SSD T5 1T (Amazonで15999円)

 

他にもSonyのNP-F550バッテリー二つにAndoreのモニターホルダーがオマケで同梱されていました。 かなりお得な買い物をしたと思っています。

 

さて、これが全て必要だったわけではなく、とりわけVideo Assist 12G 5インチモニターはいらないので売りに出し、結果7万5千円で落札されました。 

 

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買ってすぐに売ってしまったVIDEO ASSIST 12G HDR 5インチモデル

このモニター、僕が活用しているATOMOSのNinja Vとよく比較されるモニターであり、SigmaのFPやCanonのC300 Mark IIなどでもBlackmagic RAW収録を可能としていることで知られています。(ちなみに、現在Blackmagic RAW収録対応カメラは下記の通り)

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参考までにAtomos Ninja VでProRes RAW記録に対応しているカメラは下記の通りになります。

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ProRes RAW収録とBlackmagic RAW収録の両方に対応する機種は今のところ、SIGMAのfp、PanasonicのS1H、そしてNikonのZ6&Z7(&MK II)となっていて僕の所有するα7S IIIではBlackmagic RAW収録未対応だったため、売ることにしたわけですが、もしPanasonicのS1Hを所有していたら売るかどうか、真剣に悩んだことでしょう。 ちなみに、カメラからのRAW出力が可能なだけではBlackmagic RAWの収録には対応しないらしく、Blackmagic社がカメラのセンサーをしっかりと研究し、そのセンサーに合ったキャリブレーションをした機種のみが対応リストに載るとのことです。(もちろんメーカー間の政治的なやりとりはあるでしょう) 今の所、SonyはAtomosにベッタリで、Blackmagic Desigin社と交渉する気はなさそうです。(あるいはその逆か、両方か)一方、CanonはREDと密約を交わしたのか、R5や1DX MK III他でカメラ内でのRAW記録を既に実現しています。
 

それにしても、RAW出力機能をカメラに搭載して、外付けモニターでRAW収録するという文化はいつまで続くのでしょうか? カメラ内でRAW収録ができない根本的な理由はREDがいくつかの特許を持っていて他メーカーがカメラ内でのRAW記録機能を搭載するのを牽制しているという現実がありますが、映像制作に関わる全ての人たちのためにREDがどこかで妥協してくれるのを願っています。

 


下の記事本文を読む前に上の三つの記事を読んでおくことをお勧めします。

Sherif Mokbelさんの徹底的な比較

Blackmagic RAWとProRes RAWが発表された時からどちらのRAWフォーマットが優れているのか常々比較したいと思っていた。 私の所有するS1Hが両方のRAW記録に対応したことで、同じセンサーから出力される情報をもとに公平な比較をする機会を得ることができたのでテストを行うことにした。

Blackmagic RAWの登場はDavinci Resolveを使ってカラーグレーディングをする人たちにとってとてもエキサイティングなニュースであったと言えよう。 そしてRAW出力が可能な全てのカメラでBlackmagic RAW収録対応することを願っていると思う。

ただし、我々はBlackmagic RAW対応になったカメラで記録するBlackmagic RAWとPocket Cinema Camera 4K/6K等で記録するBlackmagic RAWが全く同じ性質のものなのかを確認する必要があるのではないだろうか? そして、ProRes RAW記録と比較した場合にどのようなメリット/デメリットがあるのか知っておくことが重要だと考える。 この動画の中で、私はどちらにも偏ることなく正直な意見をテスト結果を振り返りながら述べていきたいと思う。

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S1Hユーザーは確かに両方試せるのでどちらが良いのか確認できるのですね

S1HでBlackmagic RAW記録をするための準備

最初にS1Hを利用してBlackmagic RAW収録を可能にするために必要な機材と条件を伝えておこう。 S1Hのファームウェアを2.4(あるいはそれ以上)にアップデートする必要がある。 そしてBlackmagic Video Assist 12GをHDMIケーブル経由で接続しよう。モニターは5インチと7インチのどちらのモデルでも構わない。 HDMIケーブルはハイスピードHDMIケーブルを必ず使用して欲しい。RAWデータは膨大な量であり、その情報をしっかりと転送するために適したHDMIケーブルを選ばないと数秒間の録画ごとに接続が遮断されてしまう可能性が出てくる。 私が使用しているHDMIケーブルはリンクを貼っておくので参考にして欲しい。

 

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ファームウェア更新、Video Assist モニターレコーダー、RAW出力対応のHDMIケーブルが必要

準備が整ったらS1HのメニューでRAWデータが出力されるように設定しよう。

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S1HのメニューからRAW情報の出力をONにしましょう

この設定で記録できる動画の種類 

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様々なフレーバーのBlackmagic RAW記録が可能

S1Hで記録できるBlackmagic RAWの種類は下記の通りになります。

  • 5.9K 5888 X 3312 16:9 30P (フルフレームセンサー領域を用いた記録)
  • 4K    4128 X 2176 17:9 60P (センサーのS35領域を活用した記録)
  • 3.5K 3536 X 2656 4:3 アナモフィック  50P  (センサーのS35領域を活用した記録)
  • 3.5K 3536 X 2656 4:3 アナモフィック  30P  (センサーのS35領域を活用した記録)

上記のRAW記録は12bit収録となる。カメラ内コーデックや外部ProRes記録の10ビット4:2:2記録に比べて遥かに優れた映像記録が可能だ。 世の中には16bit RAW出力を謳うカメラが何機種もあるが、現時点で16bit記録が可能なレコーダーというのは存在せず、マーケティング目的が色濃いため、「16bit出力」という言葉を額面通りに信じない方が良い。

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16bit RAW出力はすなわち16bit RAW記録、とはいかない模様

S1Hで記録するBlackmagic RAWはBMPCCで記録するBlackmagic RAWと一緒なのか?

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Blackmagic RAWはBlackmagic RAWなのか???

結論から述べると、二つのカメラで収録されたBlackmagic RAWは全く一緒ではない。なぜこのような結論に辿り着いたか説明しよう。

S1H(外部機器経由)で記録したBlackmagic RAWの映像をDavinci Resolveで取り込むと自動的にカラースペースをV Gamutに、ガンマをV-Logに設定してくれる。理論上はこの組み合わせによってセンサー情報を一番効率的に記録できることになっている。なので、この設定のままカラーグレーディングすることを強くお勧めする。 が、さらにクリエイティブに色々と試したい人たちはあえて違ったカラースペースや異なるガンマカーブを試してみても良いだろう。 時には、そのほうが素晴らしい結果を得ることだってあるのだから。

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V GamutとV-Logの設定が理想的とされている

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ただし、冒険をしてみることも決して悪くはない (ガンマカーブコントロールは不可)

V-Gamut、V-Logや他のカラースペース、ガンマを使った場合に気づくかと思うが、ガンマカーブコントロールのスライダーがグレイアウトになる。 この部分を活用するためにはカラースペースとガンマをBlackmagicのものにする必要がある。このガンマコントロールに関しては、通常のカラーグレーディングで行うカーブのコントロールで対応できるため、そこまで気にする必要はないだろう。 同様にISOコントロールもグレイアウトしていることに気づくかもしれないが、こちらも通常の露出調整スライダーで対応可能ではある。(得られる効果は全く一緒になる)

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ISOのコントロールはEXP(露出コントロール)スライダで代用可能

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ハイライトリカバリーもグレイアウトしている (今後のアップデートに期待)

ISOの下のハイライト リカバリーに関しても同じでグレイアウトしている。この部分は白飛びする間際の情報をどれくらい取り戻せるかを決定する部分でスタンダードのカラーマトリクス上では省かれてしまう情報でもあるので、可能ならば、この部分のコントロールは今後のアップデートで改善して欲しいと思っている。

最後に、BMPCCカメラで記録したBlackmagic RAWファイル読み込み時に現れるApply LUT(LUTの適用)チェックボックスが表示されない。これも大した機能ではなくて、収録時に使用したモニタリング用LUTを適用するかどうかを決めるためだけなので、これに関してはマニュアル(手動)で変更することで対応可能である。

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Apply LUT(LUTの適用)チェックボックスも表示されない(でも自分でLUT適用すればOK)

 色温度変更、ホワイトバランスの再現性を検証する

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ホワイトバランスの再現性はクエスチョンマークとは一体どういうこと?

RAW記録をするメリットの一つは、メタデータをもとにホワイトバランスをコントロールできることだが、S1HでBlackmagic RAWを記録した場合もやはり問題なくホワイトバランスのコントロールは可能なのだろうか? 

私がテストを行って得た結論はYESでもあり、NOでもある。 どういうことか説明しよう。

まずはBMPCC 6Kを使用して正確なホワイトバランスである6200K(ケルビン)に合わせた映像と、わざと後に補正する目的で不正確なホワイトバランスである2500Kで撮影した映像を用意した。  RAWで記録した映像は撮影後にポストプロセスで正確なホワイトバランス調整が可能であるため、補正はとても簡単に行うことが可能であった。

 BMPCC 6Kで撮影したBlackmagic RAW映像のホワイトバランス調整

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BMPCC 6Kで撮影された映像、一つは6200Kにホワイトバランスを設定

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もう一つの映像はわざとホワイトバランスを2500Kにして撮影しているため、青みがかっている

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RAWの場合、ホワイトバランスのパラメータをいじることで簡単に補正可能

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2500Kで撮影した映像のホワイトバランスを調整して、正確に6200Kになった

 

S1H(外部記録)で撮影したBlackmagic RAW映像のホワイトバランス調整

S1Hでも同じような実験をしてみた。 最初の映像は正確なホワイトバランスである5500Kで撮影し、もう一つの映像はわざと不正確な2500Kで撮影することで、後に編集時に両方の映像の色味をホワイトバランスのパラメータ変更だけでマッチングできるかを試してみた。

BMPCC 6Kの映像の時と同じように 、2500Kで撮影された映像のホワイトバランス・パラメータを変更して5500Kにしたところ、最初からホワイトバランスを5500Kに設定した映像とのマッチングは上手くいかなかった。

後から5500Kに調整した映像は黄色/オレンジの色味がかった状態になってしまっている。ベクタースコープを見て確認しても違いは明らかであった。

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S1H(外部記録)で撮影したBlackmagic RAWの映像(正確な5500Kで撮影)

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S1H(外部記録)で撮影したBlackmagic RAWの映像(後に補正するため、2500Kで撮影)

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2500Kで撮影した映像のホワイトバランスを5500Kに変更した状態

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ベクタースコープ上でも色の違いは明らかだそうだ

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後に5500Kに補正した左の映像は、最初から5500Kで撮影した右の映像とマッチしない

 

ただし、この誤差を補正するために私が要した時間はたったの数分であったことも付け加えておきたい。

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少しの補正を施すことで、色合いを近づけることは可能であった

少なくともBlackmagic RAWで撮影された映像情報には正確に色をマッチングさせるために必要な全てが揃っていたにも関わらず、ホワイトバランス・パラメータを変更しただけではマッチングできないという結果になった。

このことから、BMPCC 6K/4Kで撮影されるBlackmagic RAWの映像とS1H(外部記録)で撮影されたBlackmagic RAWの挙動が一緒でないことがわかる。

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同じBlackmagic RAW記録をしてもBMPCCとS1Hでは挙動の違う映像が撮影される

S1H(カメラ内部記録)で撮影したH.265映像のホワイトバランス調整

せっかくなので、S1Hのカメラ内部記録をした場合のホワイトバランス調整と比較をしてみたい。テストの内容は全く同じである。内部記録のコーデックであるH.265で撮影した場合はRAW記録時のようにホワイトバランス・パラメータ変更はできないため、Temp(色温度)の値を変更することで調整を試みた。 結果としては青みがかかった状態が完全に抜け切らず、不自然な色再現となっている。 Blackmagic RAWでの外部記録をした場合と比べるとその差は明らかである。 

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H.265内部記録で正確なホワイトバランス(5500K)で撮影した映像

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H.265内部記録で不正確なホワイトバランス(2500K)で撮影した映像

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内部記録はホワイトバランス・パラメーター変更ができないため、Temp(色温度)を調整

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H.265記録の映像をTempの調整のみで近づけた場合(左)、誤差は明らかである

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2500Kで内部記録と外部記録した場合

H.265(左)はRAW(右)に比べ補正後の誤差の度合いが大きい

もちろん、内部記録した場合も頑張れば色補正をすることで、正確な5500Kで撮影した映像に近づけることは可能である。実際に、私が試したところ、Blackmagic RAWで記録した映像(2500K)よりも10倍は色補正に時間をかける必要があった。

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内部記録も頑張れば、ここまで補正可能

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ホワイトバランスの補正にかける時間は(内部記録では)膨大になってしまう可能性が高い

S1H(外部記録)で撮影したProRes RAW映像のホワイトバランス調整

テストで判明した通り、S1Hの場合、内部記録よりも外部機器によるBlackmagic RAW記録の方がより正確なホワイトバランス調整を編集時に可能とするが、実はBlackmagic RAWでの記録よりも更に優れた方法があることをご存知だろうか?  

それは外部機器(Atomos Ninja V)によるProRes RAW記録をすることである。

S1H(外部記録)でのProRes RAW撮影で、今までと全く同じテストを行ってみた。

結果は単純明快で、わざと間違えたホワイトバランスである2500Kで撮影した映像をFinal Cut Proに読み込んでRAWパラメータの中のホワイトバランス・パラメータを2500Kから5500Kに変更すると、最初から5500Kで撮影した映像と全く同じ色味となった。

(ProRes RAW記録でのホワイトバランス調整は)とてもシンプルでクリーンで時間の浪費もなく、グレーディングの技術も必要としない方法である。

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S1HとNinja Vを使ってProRes RAW記録した映像(5500K)

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S1HとNinja Vを使ってProRes RAW記録した映像(2500K←わざと間違えている)

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Final Cut ProのRAWパラメータでホワイトバランスを変更する

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2500Kから5500Kに変更する

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最初から5500Kで撮影した映像と全く同じ色合いになる

ProRes RAWでの記録が正解なのか? というと、そう簡単な回答にもならない。

ProRes RAWの一番の欠点はDavinci Resolve未対応という点である。

Final Cut Proの色補正機能は、Davinci Resolveと比べるとどうしても色褪せてしまう。

私からのアドバイスは、もしホワイトバランスが不安定になりやすい撮影現場になるならばProRes RAWで撮影し、Final Cut Proでホワイトバランス補正を施した後にProRes 4444で書き出し、Davinci Resolveで更に複雑な色補正やグレーディングをすることである。

あるいは、(ホワイトバランス調整があまり必要でない場合)Blackmagic RAWで撮影し、色補正からグレーディングまでの全てを完結するという選択肢ももちろんある。

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ホワイトバランス調整はFinal Cut Proで、グレーディングはDavinci Resolveでどうぞ!

ホワイトバランス調整のまとめ

 もう一度おさらいしよう。 S1H(外部記録: Video Assist 12G使用)でBlackmagic RAW記録をした場合、RAWパラメータの変更によってホワイトバランス調整が可能である。

しかし、BMPCC 4K/6Kシリーズで記録されるBlackmagic RAWの映像と比較した場合、正確性が不足している。

一方、同じく外部記録(Atomos Ninja V使用)でProRes RAW記録した場合はRAWパラメータのホワイトバランスを調整して、正確なホワイトバランス得ることが可能となっている。(ここでいう「正確」とは一般的に言われるRAW記録のメリットであるホワイトバランス調整の基準を満たしているという意味になる)

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S1HでBlackmagic RAWを外部記録した場合

Resolveでホワイトバランスコントロールは可能である

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しかし、正確性においてはProRes RAWでの記録の方が上回っている

私の個人的な予想ではあるが、Panasonicはおそらくこの不具合を把握していると考える。 その理由は、Panasonicは自社の製品にとても高いスタンダードを設けているため、会社としてそのような不具合を許容しないだろうと考えるからだ。 

過去の歴史からもその様子は伺える。 2020年にS1Hが外部機器経由でのProRes RAW記録を実現したときにはFinal Cut Pro上でのホワイトバランスコントロールは不可能で、その形は不完全なものであった。 Panasonicはこの問題をとてもスピーディに解決したという過去がある。 今回のBlackmagic RAWにおけるホワイトバランスコントロールの不完全さも、時間と共に解決するであろうと考えている。近い将来のアップデートを期待したい。

 

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Panasonicは自社製品に課すスタンダードが高いので

この問題はすぐに解決するはずである

ノイズとディティールを比較してみる

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ノイズとティティールの再現性もテストしている。残念なことに、このテストの過程でBlackmagic RAWの欠点をいくつか見つけてしまった。 これはS1Hで記録したBlackmagic RAWに限らず、BMPCC 4K/6Kで撮影したBlackmagic RAW映像にも共通した欠点である。

今回はノイズとディティールの表現をしっかりと確認するためにLUTは一切使用しなかった。 LUTを使用した場合、シャドー表現部のノイズが隠れてしまう可能性があるためである。 

ノイズ&ディティール テストの方法と説明

テストではISO640(ネイティブISO)とISO3200の両方で同じシーンを撮影することでノイズの少ないクリーンな状態での映像とノイズが多く出た状態の映像を作り出すことにした。

撮影は5.9Kで、Blackmagic RAW、ProRes RAW、H.265(内部記録)の方式を使って行った。理由は、各種コーデックで同じシーンを撮影し比較することでどのようなノイズ処理が行われているのかを確認するためであった

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このシーンをISO640とISO3200で撮影

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すなわち、クリーンな映像とノイズの多い映像を各種コーデックで撮影し比較する

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コーデックはBlackmagic RAW、Pores RAW、H.265の3種類

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撮影後はNeat Videoのノイズ除去機能を使ってノイズレベルの測定をしている

撮影後はNeat Videoのノイズ除去機能を使ってノイズレベルの測定を行った。そして結果を元に作ったチャートがここにある。

ノイズとディティールをテストした結果

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左からH.265、Blackmagic RAW、ProRes RAWの順に並べた各ISOでのノイズレベルの結果

このチャートを見ると、いちばん左のH.265がノイズが一番少ないため優秀なのではないかと錯覚するかもしれない。 

実際はその真逆の考え方になる。 ノイズが少ないということは即ちノイズ除去処理を行っているということであり、除去の度合いが多ければ多いほど、RAWデータの特徴である、ノイズを含めた全てのセンサーデータの取り込みをしていないという証拠になるからだ。

RAWで撮影した映像はノイズがたくさん出るというのが普通なのである。

なのでBlackmagic RAWで撮影した映像のノイズレベルがH.265より多かったのは想定の範囲内であったが、ProRes RAWのノイズレベルと比較した時にノイズが明らかに少ないことは想定外であった。

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内部記録(写真左)の場合、ノイズ除去処理が行われるので、当然ノイズは少ない

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全てのセンサーデータを取り込むRAW撮影は即ちノイズも取り込むので

ノイズの量が多いのは想定の範囲

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Blackmagic RAW(中央)とProRes RAWのノイズレベルが違う理由は?

念の為に繰り返すが、全く同じセンサーからRAW情報を元に映像を記録するならば、フォーマットに関係なく全く同じ映像が作り出されるというのが理論上では正解になる。

RAWデータを取り込む時のアルゴリズムが違うため、1パーセント程度の誤差が生じてしまう可能性は否定できないが、だとしてもその誤差というのは確認不可能なくらいに少ないものであるべきなのである。

Blackmagic RAWで撮影した映像のノイズがProRes Rawで撮影した映像のノイズの二分の一程度というのは、何かがおかしいと考えざるを得ない。

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同じセンサーからRAWデータを抽出した場合

RAWフォーマット間の誤差は認識不可能なレベルなのが普通

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テスト結果を見る限り、ProRes RAWとBlackmagic RAWのノイズの量の差は歴然である

更なる細部の検証を行った後に出た結論として、またしてもProRes RAWがRAWフォーマットとしてはBlackmagic RAWより優れていると認識した。

この結論に辿り着いた理由は、単純にProRes RAWの方がノイズが多いからだけではない。

映像に映し出されるノイズのパターンやクオリティを比較して、ProRes RAWの方が粗く、はっきりしたノイズが現れているのを確認したからである。(←粗くはっきりとしたノイズの存在はノイズ除去処理が施されていない明確な証拠となりうる)

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またしても、勝者(?)はProRes RAWとなった

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テスト撮影の結果を並べた様子

この状態では違いはほとんどわからないかもしれない(ヒントは下の数字)

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こちらも比較した様子、細かい部分に目を向けないとわからないかもしれない

ノイズとディティールのさらに細かい分析

私は既にノイズとディティールテストの結果をお伝えしたわけだが、更に詳しい結果をこれから述べていくこととする。 内容はかなり専門的になるため、Nerd Alertを発動させて欲しい。(Nerdとはオタクのことで、Alertは警告の意味。 合わせてオタク警報とでも訳した方がいいのかもしれません) 

なので、細かい話に興味のある人だけ聞いてほしい。

S1Hを使用したH.265内部記録映像の分析

まずはH.265のファイルから詳細に見ていこう。

カメラ内部で記録した場合、カメラがディノイズ処理(ノイズ除去)を行うため映像自体は比較的クリーンな状態を保っている。モノクロマティック ノイズが若干認識できてディティールが失われている部分も確認できる。 

ブルーチャンネルを確認すると実際の映像の状態が更にわかりやすい。 ブルーチャンネルの確認はレントゲンを見ているような感じで、全てのノイズや映像圧縮時に発生するいくつかの映像パターンを透かしてみることが可能になる。 通常のRGBチャンネル表示では隠れてみにくいものが見えるというわけだ。 結果、想像した通り、マクロブロッキングがたくさん発生していることが確認できた。これは圧縮記録時に起こる現象であり、特段驚くべきことではない。

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ISO640(左)とISO3200(右)でH.265記録した映像(800%ズームした状態)

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ブルーチャンネルを確認するとマクロブロッキングがたくさん発生中であった

S1Hを使用したBlackmagic RAW(外部記録)映像の分析

Blackmagic RAW記録の映像は明らかにクロマノイズがたくさん発生していることが一眼でわかる。 これはH.265内部記録と違いディノイズ処理がなされてないからである。

H.265の映像と比較すると差は明らかである。

ノイズの量はBlackmagic RAWの方が多いが、その分、ディティールがはっきり描写されている。

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Blackmagic RAWで記録した映像 クロマノイズが多数発生している

これはRAWでの描写だからそうなるのだろうか?私は疑いを持ち始めた。 特に数字のエッジの描写に注目して欲しいのだが、これはRAW記録であるためにディティールの描写がくっきりしているのではなく、何かしらのシャープニングが施されているのではないかと感じるのである。

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数字のエッジの描写を見た限りではシャープニングがかかっているように見える

ProRes RAWとの比較をする前に、せっかくなのでBlackmagic RAWで撮影された映像にノイズ除去処理を施した結果をH.265の内部ディノイズ処理と比較してみた。

比較してみた結果、Blackmagic RAWの映像はH.265の映像よりディティールに富んでいる。 私は常にポストプロダクションにてノイズ除去処理を行うことを強く推奨しているが、その理由はカメラ内部でのディノイズ処理のクオリティが低いためである。 ここにRAW記録の強みがある。

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H.265(左)とノイズ除去処理を施したBlackmagic RAW(右)の映像比較 (ISO640)

カメラ内でノイズ除去のプロセスを一度通過しているH.265の映像にノイズ除去処理を行うと結果は更に明らかで、H.265の映像は塗り絵のようになってくる。

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H.265(左)の映像にノイズ除去を施すと、更にソフトな映像になる(右はBlackmagic RAW)

Blackmagic RAWの映像のブルーチャンネルを確認すると、H.265ほどマクロブロッキングは現れていないことが見て取れる。

しかし、RAW映像をここまで拡大して観察した場合、ピクセル化されたノイズが必ず顕著に現れるはずだが、そういうわけではなかった。 

実際にはH.265内部記録時に見られるような塗り絵のような絵作りになっている印象さえ受ける部分もある。

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Blackmagic RAWの映像のブルーチャンネルを確認

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更に拡大してみてもH.265記録時にみられたマクロブロッキング化は起こっていない

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こちらはH.265内部記録時のマクロブロッキング

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ピクセル化されたノイズがほどんど見当たらないのは何故か?

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拡大してみると、ノイズというよりも塗り絵のような現象が起こっていることが確認できる

Blackmagic RAWはRAW記録とカメラ内部で圧縮記録する方法の良いとこ取りをしたハイブリッドな記録方式だからではないか?

この私の仮説を更に証明するためにProRes RAWで外部記録した映像と比較してみたい。

S1Hを使用したProRes RAW(外部記録)映像の分析

 ProRes RAWで撮影された映像を拡大して確認すると、既にたくさんのノイズが現れていることがわかると思う。 但し、ノイズの質感がBlackmagic RAWのものとは若干違うことには気づけただろうか?  ProRes RAWのノイズはたくさん出てきているが、粒子自体は細かく、塗り絵のような状態ではない。

ノイズがたくさん現れるということはカメラ内部で処理が行われていない、それこそRAWのデータが採取されている証拠でもある。

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ProRes RAWで記録した映像はノイズがたくさん出ている

裏返せば、カメラ内での処理が行われていない証明でもある

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もう一度Blackmagic RAWで撮影した映像に登場願い、差を比較してみよう

ProRes RAW記録した映像のブルーチャンネルを確認してみよう。ここで露わになるノイズこそが私が伝えたかったRAW映像独特のノイズの形状である。

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ProRes RAWのブルーチャンネルを確認するとRAW映像独特のノイズパターンが確認できる

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比較としてBlackmagic RAWのブルーチャンネル確認時はこのような感じ

テスト結果を踏まえたまとめ - ProRes RAWは生卵でBlackmagic RAWは半熟卵

私の推測ではBlackmagic RAWで記録した映像は、記録される前に何かしらのディノイズ処理とシャープニング処理が行われていると考えている。 つまり、カメラ内部での処理が施されているのだ。 

カメラ内部での処理を施した場合は本当のRAWフォーマットとは呼べないのではないか?と思った人も多いだろう。 

知らない人もいるかもしれないので、念の為にお伝えするとBlackmagic RAWというフォーマットは「Partially Debayered」(部分的にディべイヤリング処理が行われている)RAW規格なのである。

※センサーのRAW情報を使って、人間の目で知覚できるイメージを作り上げる処理をすることをディべイヤリングと呼びます。

※冒頭でお伝えしたREDの特許侵害にBMPCC 4K/6Kが該当しない理由がここにあります。

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Blackmagic RAWは部分的にディべイヤリング処理されたフォーマット

ProRes RAWとの比較で説明していこう。ProRes RAW記録の場合はセンサー情報がそのまま外部機器であるNinja Vに出力され、ProRes RAWという器の中に格納される。

ProRes RAWという器に格納された情報はパソコンに移された後、現像処理(ディべイヤリング)されることによって人間の目で認識できるイメージを形成する。

RAW情報のパラメータを調整することで

  • Log カーブ
  • ホワイトバランス
  • ティント
  • ISO
  • 露出
などの調整を画像の劣化がほとんどない状態で行うことが可能となる。

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カメラのセンサーが受け取った情報をRAW情報だとして、その情報はHDMI経由で出力される

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その情報はNinja Vの中でProRes RAWという器に格納される

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格納された情報はパソコンでディべイヤリング処理され、イメージを形成する

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形成されたイメージは人間の目で認識可能になり、映像となる

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RAW情報の各種パラメータの調整でより高品質な画作りが可能となる

Blackmagic RAWの場合はどうだろうか?

カメラのセンサーが記録したRAW情報は同じくHDMI端子を経由して出力される。 

センサーから出力されたRAW情報はBlackmagic Video Assist 12Gの中でBlackmagic RAWという器に格納されるわけだが、ProRes RAWでは手付かずだったRAW情報がBlackmagic RAWの場合は部分的にディべイヤリングされることになる。(ノイズ除去処理やシャープニング処理、他、我々の気づかない処理が施されている可能性が高い)

この状態では完全にイメージとして完結していないため、コンピュータ上で更なるディべイヤリングが必要となり、その処理過程としてISOやホワイトバランスのパラメータ変更が可能となっている。ただし、先ほど私が検証した通り、S1Hで記録されたBlackmagic RAWのホワイトバランスコントロールはRAW映像から期待する基準値に達していない。

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カメラ内で生成されたセンサーのRAWデータはHDMI経由で出力される

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RAWデータはVideo Assist 12Gに移行するが…

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Blackmagic RAWという器に格納するときに部分的にディべイヤリング処理が施される

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ディべイヤリング処理は部分的なため、完全なイメージは出来上がっていない

(上の写真はあくまでも参考程度にどうぞ)

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Blackmagic RAWはRAW特性をある程度維持して部分的にディべイヤリングされているため

コンピューター上でLOGカーブの調整やホワイトバランス調整に高い次元で対応できる

Blackmagic RAWとはつまるところ、RAWを名乗ってはいるが、RAW映像の特徴を保持しながら部分的に圧縮記録されたハイブリッドなフォーマットなのである。

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Blackmagic RAWはハイブリッド!

最後にもう一つだけ付け加えるならば、私がBlackmagic RAW記録のテスト映像から発見したノイズの形状や特徴はS1H経由で記録されたBlackmagic RAW映像だけでなくBMPCC 6Kで記録したBlackmagic RAWの映像でも見てとれた。 これらの傾向はBlackmagic RAWの一般的な特徴と言って差し支えないと思う。 

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ノイズやディティール表現の特性は

全てのBlackmagic RAW映像に共通していた(撮影するカメラは関係ない模様)

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S1Hで外部記録した映像(左)とBMPCC 6Kで記録した映像のブルーチャンネルを確認すると

両者のノイズやディティール表現の特徴は一致していた

個人的にはBlackmagic RAWが本当のRAWフォーマットかどうかなど、あまり重要な問題ではないと思っている。DP(ディレクター オブ フォトグラフィー)としてはこのフォーマットがどのような結果をもたらしてくれるかのみが関心事である。 Blackmagic RAWのフォーマットで記録した映像は他のRAWフォーマットで記録した映像と比べた場合、RAWとしての特徴だけを比較すると差は確かにあるが、その差は大きなものではないと結論づけたい。

比較のまとめ

(S1Hを使用して)Ninja Vで記録するProRes RAWとVideo Assist 12Gで記録するBlackmagic RAWを比較した場合、このような結果となる。

  • ホワイトバランスコントロール: ProRes RAWに軍配
  • RAWフォーマットの特性保持: ProRes RAWに軍配 (これはREDの特許の関係で変わることはない)
現時点でどちらのRAWフォーマットを選択するかと聞かれたら、何の躊躇もなくProRes RAWと答えるだろう。 
もちろん、Blackmagic Video Assist 12Gはとても素晴らしいモニターで、5インチと7インチを選べるし、SDI端子やUSB-C経由での外付けSSDへの記録などNinja Vより機能性という意味では優れている感がある。 また、Blackmagic RAWをネイティブで扱うDavinci Resolveのカラーグレーディング機能は他の追随を許さない。
そのような諸々のことを考えた場合、Panasonicが近い将来にBlackmagic RAWでのホワイトバランスコントロールを正確なものとした時に(S1H使用時の)Blackmagic RAWでの記録というのが理にかなった選択肢となりうるのではないだろうか?

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Atomos Ninja VでProRes RAWを記録する場合と

Video Assist 12GでBlackmagic RAWを記録する場合を比較

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