新しいエントリーを追加するのは2ヶ月ぶりでございます。 最近は実際の映像制作の仕事があまりにも忙しく、記事の更新が出来ていませんでしたが、仕事で直面した問題や解決策など、たくさんのことを今後はシェアしていければと思っています。(ProRes RAWでMVを全編撮影したり、それをM1 Macで編集したりしたので)
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さて、題名通り、EOS R5がオーバーヒート沼から脱出するきっかけが急に浮上致しました。
先日、中野のFujiya Cameraに行ったときにAtomos Ninja V+の宣伝チラシが店頭に置かれていて、NINJA V+とEOS R5の組み合わせで遂に、ProRes RAW 8Kの記録が可能になるということを知りましたが、既に海外でテスト等が始まっている様なのでお伝えいたします。
目次
- 8K ProRes RAW収録に必要なファームウェアの条件とHDMIから出力されるデータの詳細
- 実際に撮影できる解像度
- 記録可能時間
- 録画時間制限に関して
- ProAVによる簡易テストの結果
- 現時点での自分の感想 & 気になる点
簡単なレビューをしてくれているのはProAV TVで、イギリスの機材ディーラーですが、常にハイクオリティな機材レビューを届けてくれています。
ATOMOSがNINJA V+を発表したときに、8K ProRes RAWの記録ができること(と4K 120P記録ができること)が大きな特徴として紹介されたが、ファームウェア アップデートでの対応になり、今年の後半ということしか時期的なことは触れられていなかった。 驚いたことに昨日、そのファームウェアはアップデートされた。 もちろん、すぐにでも試す価値があるということで、テストをしてみた。 ここでは、その感想を述べてみたい。
8K ProRes RAW収録に必要なファームウェアの条件とHDMIから出力されるデータの詳細
今回、ファームウェア アップデートにより実現したEOS R5とAtomos Ninja V+のコンビネーションですが、下記の通りに両者のファームウェアがアップデートされている必要があります。
ファームウェアのリリースノートに書いてますが、HDMI端子から出力される信号は下記の通りになります。
ATOMOS社製レコーダーNINJA V+に、ProRes RAW記録するための8K/30P/10bit映像信号をHDMI出力できるようになりました。
(うーん、10ビットなのですね?????)
こちらは、英語のサイトになります。(日本のサイトではまだリンクが機能していない様です)
実際に撮影できる解像度
ATOMOS社のファームウェア リリースノートを見たところ、下記の解像度での記録が可能だそうです。 また、Final Cut Proで編集する場合にホワイトバランスとISOのメタデータ変更が可能とのことです。
重要なポイント
- フルセンサー領域を使用した場合は8Kでの撮影が可能
- Super35の領域を使用したクロップモードで5KのProRes RAW撮影が可能
- 5K記録の場合は60Pまで対応しているみたいです。
記録可能時間
SSD記録時のおおよその記録時間もリリースノートに書いてました。おおよその目安となり、後ほど紹介するProAVのテストでは違う結果が出ています。(この流動的な撮影時間はProRes RAWの弱点かもしれません)
o 1TB @ 8K30 ProRes RAW HQ: ~40 minutes
o 1TB @ 8K30 ProRes RAW: ~42 minutes
o 1TB @ 5K60 ProRes RAW HQ: ~43 minutes
o 1TB @ 5K60 ProRes RAW: ~50 minutes
o 500GB @ 8K30 ProRes RAW HQ: ~20 minutes o 500GB @ 8K30 ProRes RAW: ~21 minutes
o 500GB @ 5K60 ProRes RAW HQ: ~22 minutes o 500GB @ 5K60 ProRes RAW: ~25 minutes
録画時間制限に関して
ProAVのYoutube動画で語られていることとして、R5のカメラ内部で同時記録した場合に29分の撮影時間制限がかかったとのことです。 リリースノートにもこう書いてありました。
There’s a 29:59 minute record time limit imposed by the EOS R5 if you trigger the recording via the camera’s record button. You can immediately restart the recording by pressing the record button again once the timer runs out.
上の文を訳しますと、カメラの録画ボタンを介して録画開始をした場合(つまりカメラ内部で同時記録した場合)29.95分の時間制限がかかりますが、29.95分後にもう一度録画ボタンを押すことで、直ちにに録画を再開できるとのことです。
また、皆さんの1番の関心事である、時間制限なしでの録画に関してもリリースノートを引用いたします。
For extended RAW recording, users should enable the “Standby: Low res” mode on the R5 and trigger recordings by touching the record button on the screen of the Ninja V+ and not the main shutter button or movie record button on the EOS R5. Triggering the recording from the Ninja V+’s touch screen will bypass the 29:59 minute record time limit, allowing continuous RAW recording to the media in the Ninja V+.
こちら、訳しますと下記の通りになります。
RAW記録の時間を延長する方法として※スタンバイ 低解像度モードをR5側で選択し、(R5のカメラ側の録画ボタンやシャッターボタンではなく)NINJA V+側の録画ボタンをタッチすることで録画を開始する必要がある。 この場合29.95分の録画時間制限は適用されない。
※実際のカメラの日本語メニューの表記とは異なる可能性がございます
ProAVによる簡易テストの結果
さて、ProAVでのテストの詳細は下記に記します。
まずはR5のメニューからHDMI出力をONにした。この場合、カメラ内で記録できる映像フォーマットはIPB標準かIPB軽量に限定されることになる。カメラとの同時記録の場合は29.95分の録画時間制限がかかり、NINJA V+のみの録画を選択したい場合はスタンドバイ低解像度モードをR5側で選択し、NINJA V+の録画ボタンをタッチすることで可能となる。
今回、私達ProAVがいち早く確認したかったことは下記の2点であった。
1) R5の内部RAW記録と比較して8K RAW画質のクオリティはいかほどなのか?
2) NINJA V+を使用した外部記録の場合にカメラはオーバーヒートするか?
この二つの結果次第ではEOS R5は映像収録機材として、充分注目を浴びるに値する存在に返り咲く可能性が高い。
既にEOS R5で内部RAW記録した8K動画はため息が出るような美しさであることは周知の事実である。 画質という点で比較した場合、世の中に存在するハイスペック シネマカメラに匹敵する。実際にR5の内部記録で録画した8K映像とHDMI経由で外部出力しNINJA V+で記録した映像を比較したところ、結果は目を見張るものであった。
細部の再現性という意味では両方の映像はほぼ互角という印象を受けた。両者ともにノイズが乗っているが、RAW映像にノイズはつきものである。 両者とも画質は互角であり、NINJA V+で録画したProRes RAW映像の画質はR5で内部RAW記録した映像と全く遜色ないことが判明した。
オーバーヒートの問題はどうだろう。 明らかに、オーバーヒートする条件というのは、たくさんの要素が絡んでくるため、コントロールされた環境での連続録画時間をまずはテストしてみた。
カメラを我々のショールームに設置し、バッテリーグリップを装着した状態のEOS R5とNINJA V+をHDMIケーブルで接続し、NINJA V+側の録画のみをスタートした。(EOS R5の録画時間制限が影響しない様にするため)
ちなみに500GBのSSDを使用した場合、28分の記録しかできないことが判明した。この28分間の間にオーバーヒートの予兆は一切感じられなかった。
SSDの容量制限で録画を止める必要はありそうだが、より連続記録に近い状態をシミュレーションするために1TBのSSDを追加で用意し、録画テストを行うことにした。
カメラの電源を落とし、確実にクールダウンしたのを確認したところで、再度実験をスタートする。
なお、1TBのSSDを使用した場合、1枚のSSDは51分の8K ProRes RAW映像を記録可能であった。 続けて500GBのSSDにも記録し続けた。 全部で今のところ1時間18分記録されている。 そこで、再度1TBのSSDと交換し記録を試みたが、この時点でNINJA V+側のバッテリーが切れる。テストはここで終了したが、1時間34分の連続記録をしている間にLP-E6バッテリー二つも使い切り、1.5TBのSSDを使い切ってもまだまだ録画可能だということが判明した。 オーバーヒートの予兆は一切なかった。
今回のファームウェア アップデートにはとても感心させられた。 もちろん、このようなコントロールされた環境でなく、実際の撮影環境ではオーバーヒートを誘発する他の可能性があり得るかもしれない。 なので、今回の簡易テストよりも、さらに踏み込んだテストの必要性があるとも言える。 ただし、今回のファームウェア アップデートにより、EOS R5の価値が(映像撮影の分野で)大幅に見直されることになるであろう。
我々はこのYoutubeチャンネルでR5を積極的に活用してきたし、R5で記録できる映像の美しさには疑いのかけようがないことも事実である。8K RAW記録をはじめとした、各種の高画質モードでオーバーヒートが起こる問題に関しては、これまでもファームウェア アップデートにより改善はされてきたが、オーバーヒートするという事実が映像製作者にとってR5を敬遠する理由になっていたことは確かである。
このファームウェア アップデートによって普段はカメラ内部で4K記録をしながら運用し、ハイエンドのプロジェクトに関わる際には外部ProRes RAWでの記録という選択をすることが可能となったのである。
さて、個人的な感想としまして、僕自身、EOS R5には多大な期待をしていた過去があります。 しかし、機体がオーバーヒートすることが判明し、僕のテンションはトーンダウンしていきます。それは、過去のエントリーを読んでいただければわかると思います。
ザ ビースト、ザ キング R5降臨 海外カメラファン達の視点 - cinemagear 映像制作機材info
EOS R5 発表されて一夜たたず、重大な欠陥が露呈される - cinemagear 映像制作機材info
EOSHDはジャーナリズムである! Canon EOS R5の疑惑を徹底追及 - cinemagear 映像制作機材info
現時点での自分の感想 & 気になる点
オーバーヒートするということは、映像制作の現場では使えないということで僕が下した決断はSonyのα7S IIIを購入することでした。 その決断には全くの後悔はなく、今のところ、α7S IIIの恐ろしいほどの動画性能に惚れ惚れしているところでございます。 しかししかし、R5の8K ProRes RAW記録が、今後さらに検証されていき、熱停止しないということならば、EOS R5というカメラが映像制作に積極的に使われない理由が見当たりません。
ただし、以下の点が気になります。
1. 同時記録がIPBオンリーな点
これは、EOS R5の場合、高画質での内部記録がオーバーヒートの原因となっている以上、しょうがない事ではありますが、 他社の競合機種、Sony α7S IIIや Panasonic S1シリーズでは外部ProRes RAW収録時でも内部記録で最高画質での記録が可能なことと比べると見劣りしますね。
2. トータルコストの問題
Ninja V+は20万円以上します。 これを安いとみるか、高いとみるかは人それぞれですが8K対応のSSDを揃えるとトータルコストは30万円近くになると考えられます。
8K RAWが撮影できるのですからハイエンドプロダクションでは苦にもならない値段ですが、個人で運用となると、R5をもう一台購入して2台で内部RAW記録という運用の仕方の方がいいかもしれないですよね。
3. 編集環境
ProRes RAWは決して重いファイルではありません。 RAWファイルとしては扱いやすい方かもしれません。 Final Cut Proで編集する分には、4K ProRes RAWファイルは再生自体は全く問題なくスムーズです。(Macbook Pro 13インチ + 8GBの高性能eGPU運用時) ただし、RAWファイルの処理に必須となるノイズリダクションを作業工程に含めた場合、かなり重たくなります。 ましてや8KのRAWファイルとなると、どれだけ重くなるのか、想像もしたくありません。 ここで、4Kでは足りないのですか? なぜ8Kなのでしょう? という根本の問題にぶち当たります。 それだけハイエンドな仕事がないわけではないですが、その仕事をしている人でR5を運用する人はどれくらいいるでしょうか? 逆にR5を所有しているユーザーでそのようなハイエンドの仕事に関わっている人たちがどれくらいいるでしょう?
4. キャノンのクリップル ハンマー問題
さてさて、R5が発表された時にHDMI経由でRAW信号が出力できることをキャノン関係者以外で知っている人が果たしていたでしょうか? 答えはかなり高い確率で否です。 キャノンという会社が消費者に対して、一つの機材を売るときに、その機材の本当のポテンシャルを偽って販売する傾向があります。(批判があれば受けましょう)
対して、ソニーやパナソニックに目を向けますと、ソニーはFS700を発表した時に、最初から将来的に4Kに対応することやRAW記録に対応することを公表していました。 パナソニックは確かにS1に後付けで6K記録の機能をつけたり、GH5SのRAW出力もできるようにしましたが、大枠で大きな欺き方はしていない方だと思います。←あくまで個人的感想です。
こうなってくると、R5の次に発売されたC70の存在はどうなるでしょう? 値段的にはR5より高くフルフレームではないC70にはRAW出力機能は搭載されていませんし、キャノンも公式に搭載される可能性はかなり低いと言っています。 では、現時点で映像制作用カメラに60万円ほど投資できるクリエーターがR5 + Ninja V+とC70のどちらを購入するべきでしょうか?
迷いますよね? そういうことです。
【特典付き】Canon EOS C70 デジタルシネマカメラ EOS C70 — SYSTEM5
※クリップルハンマーとは、Cripple Hammerと英語で表記され、主にキャノンが発売するカメラの本来の機能を敢えて使えなくした状態で、機能的に大幅に下回るものとして販売すること。 上位機種のシネマカメラ等を守るための処置であり、マーケット セグメンテーション Market Segmentationとも呼ばれるが、キャノンの場合は度が過ぎるため、カメラ愛好家コミュニティではよく使われる表現
5. 10ビット記録にマイクロHDMI
先述しましたが、キャノンの公式発表ではHDMI出力は10ビットになります。 10bitが悪いわけで全くありません。 ほとんどのプロダクションでは10ビットもあれば色補正は充分でしょう。
ただ、せっかく8K映像をRAW出力できるということでハイエンドプロダクションにも適用されそうな状況で10ビットですか… というがっかり感は僕的にはあります。 (これも人それぞれでしょう)
また、HDMI経由での録画になるわけですが、マイクロHDMI端子というのは信号が途切れやすく、接続が切れやすいと一般的には認識されています。 この辺りがすごく微妙ではあります。
5. EOS R3やR5Cの存在
明らかになっていることで、EOS R3が発売されます。 動画機能がどれだけ素晴らしくなるのかはまだはっきりしていないのですが、もし8K RAWが記録できるとしたら(逆にできないとおかしいと思っていますが) R3で良いのでは? あるいはEOS R5をシネマカメラにしたバージョンであるEOS R5Cの存在も囁かれていますが、シネマカメラならばオーバーヒートはしないでしょうから、R5Cを買って内部RAW記録を満喫する手だったあり得るわけですね。
ということで、色々書きましたが、EOS R5の8K記録対応、正直興味はあります。 もしかしたら、一度諦めたR5を購入するかもしれません。(お金がどこにあるのか、という問題もありますが)
皆さんはどう思われているでしょう?
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